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[今回の過去問]
浜松医科大学(医学部医学科)2011年度 目標80分
次の文章を読んで、以下の問いに答えなさい。
先日のことであるが、「精神の分子的基盤」をテーマとするシンポジウムに参加した。
演者の話はざっとこんな内容である。ヒトを含む多くの動物種において、記憶を獲得した後、ある種(例えば恐怖)の記憶を想起する場合、最初に海馬の働きを必要とするが、時間の経過とともに徐々にその海馬依存性が減少する。どうやら、記憶を保存する能領域がほかに移行するらしいのである。その移行の詳しい仕組みはまだわからない。しかし今後、海馬の神経新生を適切に制御することで、恐怖記憶が保存される能領域をコントロールでき、トラウマ記憶が原因となるPTSD(心的障害)の新たな予防や治療法の開発につながることが期待される・・・・・・
その話しの途中で演者は、どういうつもりか、ある知人作家の小説の一部を紹介した。
主人公がある日、とある町の片隅で、「いらなくなったあなたの記憶を買います。ほしい記憶を売ります。」と書かれた看板を目にして、その店の中年の男に看板に偽りはないかと尋ねた。・・・・・・それから数時間後、主人公は自宅で100万円を手にはしゃいでいた。ほんとうに嬉しくてしようがなかったが、数日経つと不安になってきた。「いったい自分は何の記憶を売ったのだろうか」と。不安はピークに達し、自分はひょっとしたら取りかえしの付かないものを売ったに違いないと思い、急いで先の店に行った。
幸いにもその中年男は店にいたので、「この100万円をそのまま返すから、自分の売った記憶を戻してくれないか」と頼んだ。男は当初無理だと断っていたが、そのうち仕方がない顔をして「それじゃ、こうしましょう。どうしても記憶を返してほしいのなら、その記憶を売ります。ただし110万円です」と折れた。主人公は結局、110万円を支払って元の記憶を買い戻した。その記憶とは「今朝、犬に吠えられた」というものだった。
注)PTSD: Post Traumatic Stress Disorder (心的外傷後ストレス障害)
設問 記憶の分子レベルでの解明が進むことで、将来、精神疾患の治療として記憶の操作が行われるようになるかもしれない。そのような未来社会の可能性に関して、あなたの意見を800字以内で述べよ。
【これまでの話】
浜松医科大学・過去問についての検討の3回目です。今回で答案を、完成させます。
[第66回]
「具体例を挙げて、述べる」
A子 「今週も、よろしくお願いします」
平川先生「こちらこそ。先週の議論を踏まえて、早速、答案を完成させましょう」
A子「はい、分かりました」
(しばらくして)
【以下が、A子さんが作成した答案です】
1、医療とは、医術で患者の病を治すことをいう。
そこで、精神疾患に関しても治療の必要があれば、患者の恐怖等の障害となっている記憶
を取り除くことが、許されるようにも思える。
しかし、精神疾患とは、精神的な活動において、機能的な障害を伴っている状態のことを
いう。人の脳の働きそのものに関わることであり、個人の尊厳に関係する極めてデリケート
な分野の問題である。慎重に対応する必要がある。
2、仮に、本問事例のような人の記憶の消去が許されるとしたら、どうなるか。
たとえば、病で急死した母親の、最後に苦しんで亡くなる場面を、記憶操作で除去すると
する。親が苦しんでいるところを思い出すのは、子どもとしても、つらいことだ。だから、
そのつらい記憶を消すことは、一時的にはよいことかもしれない。その人にとっては、スト
レスとなる原因がなくなる。精神的な障害がなくなることにつながる可能性は、高いかかも
しれない。
しかし、人の記憶は、他の事柄と関連し合っている。愛する母とのかけがえない最後の
日々、それを意味あるものとしているのが、親が最後に苦しんでいる場面の記憶である。
深い悲しみを味わったからこそ、今、目の前にいる妻や子どもたちという家族が、大切な
存在として感じられるのである。
もし、その記憶を消し去ったら、彼は、母親との別れまでのひとときを、失ってしまうだ
けではない。愛する家族のありがたさまでも、感じなくなる可能性が高い。
悲しみがあるからこそ、喜びがある。人は、人生における様々な体験を通して、生きること
の尊さを学ぶのである。
私は、いくら科学技術が進歩し、機能性、経済性が重視されても、人間としての尊厳を害
するような医療技術は、認めるべきではないと考える。
それだけではない。技術を悪用し、人格を改造して犯罪等に利用する場合も十分に予想さ
れる。
3、したがって、精神疾患の治療として記憶操作をすることには、反対である。
特殊な場合を除き、原則として認めるべきではないと、考える。(763字)
平川先生「なるほど、医療の本来あるべき姿を考えて、問題の検討をする。抽象的に論ずるので
はなく、具体例を挙げて展開していて、説得的です。合格答案です」
A子「ありがとうございます。先生が前回おっしゃったように、具体的に記憶操作によ
る弊害を挙げると、主張が伝わりやすくなりますね。」
平川先生「ええ、そうです。それにしても、A子さん、昨年末からおよそ半年間、私のこの講座を
受講して、文章を書くのが、ずいぶん早くなりましたね」
A子「えっ、そうですか。わたし気付きませんでした(うれしそうに、微笑む)」
平和先生「はい、前だったら、私が、どうすべきか、一々説明していました。今は、ポイントさ
え伝えれば、自分で道筋を作っていくことができるようになりました。この調子で、続
けましょう」
A子「はい、『継続は力』って、本当なんですね。今年2月、医学部に不合格の知らせを受けたと
きには、『もうやめようかな』って、思いました。
でも、この小論文の勉強を通して、医療のあり方を考えることができるようになりまし
た。1日も早く医師になって、病に苦しむ人の役に立ちたいと思います。
先生のご指導のおかげです。ありがとうございます」
平川先生「(少し照れたように)いえいえ、たいしたことはしていませんよ。
さて、来週からは、末期がんの患者さんに対する医療についての見解を問う2009年度の
横浜市立大学(医学部医学科)の問題を、検討していきましょう。
患者が望むべき最後を迎えるようにするのに、医療機関としてどう関わるか、なかな
か考えさせられる問題です」
A子「はい、興味を引く課題ですね」
平川先生「ところで、現役の高校生たちは、今、一学期の定期テストの真っただ中です。
いよいよ、この試験の後、三者面談が始まります。志望校の選定がなされ、夏休みにか
けて、現役生の受験勉強が、開始されます。
A子さん、気を抜いてはダメですよ。例年この時期になると、再受験組がだらけてきま
す。不合格だった自分を、忘れてしまうようです。
高校を卒業し、毎日学校がないので、自由になった気分がすることも分からないわけ
ではありませんが。油断大敵、自分の目標は何か忘れないでくださいね」
A子「はい。そうですね。私の周りでも予備校に来て、授業中は居眠り。後は、近くの喫茶店で
おしゃべりをして1日を過ごしている子が、結構います。
でも、私の目標は、来年2月の国立大学医学部入試に合格することです。気を引き締めま
す」
平川先生「ええ、その意気です(笑)。来週もおたのしみに」
A子「はい、今日はありがとうございました」
【今回のポイント】
「センターまで、あと半年」
現役高校生の一学期期末テストが、始まっています。定期テスト後、どこの大学を受験するか志望校の選定が行われます。いよいよ、最後のセンター入試、2次試験に向けた受験勉強がスタートします。
とはいっても、夏休み明けまでは、英数国の主要科目中心に勉強を進めるのがよいでしょう。小論文対策は、最低、週1回「平川先生の小論文講座」を見るようにしましょう。
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